指先の白昼夢

back numberさんの曲を元にしたお話やオリジナルなどなど

カップの底に見える空

ソーサーとカップがカチャリと重なり合う音が店内に響く。 静かすぎる店内に一瞬入る店を間違えたなと思ったが、今更店を変えて仕切り直すほどの勇気はなかった。そしたらきっと今日のミッションは完遂しない。間を開けてしまったら私のこの決心は鈍ってしま…

本日はお日柄もよく

賑やかな店内で水滴が滴るジョッキを手に持つ。はしゃぐでもなく、おつかれーと一言、ジョッキを合わせる。ごくりごくりと音を立てて豪快に飲み干す親友の陽太の顔を眺めてから、俺もジョッキに口をつけた。「あーーっ!うめーー!」半分ほど飲み干した陽太…

届かない歌

平日の午後4時——西日が降り注ぐ中ぼんやりと歩く男が一人。いくつか皺の寄ったシャツにチノパン、足元はソールのすり減ったビルケンシュトックといった格好で手には飲みかけの缶ビールを持ち、虚ろな目をしている。職質をかけられそうな出で立ちではあるが、…

理由だけでは続けられない

アイボリーのVネックのノーカラーブラウスにベージュのレースタイトスカート。足元は7センチヒールのブーティーを履いている美織は、カフェから窓の外を眺めていた。ここに来るまで羽織っていたキャメルのチェスターコートは椅子の背もたれに畳んでかけた。…